【究める】櫓の自作実験
櫓の自作実験(エピソード)を順を追ってブログ調に紹介します。
GL-Laboでは「櫓の研究開発」ページでの連載の行きがかり上、この「櫓の自作実験」ページの連載を始めました。櫓に秘められた不思議な力を感じて自作実験を開始するとまもなく、操船効率や推進力を飛躍的に改良できるという想いが強くなりました。そして「新しい櫓」の誕生につながっていきます。お急ぎでなければエピソードを順番にご覧ください。
なお、一部情報には「知的所有権」が関わっていますが、アマチュアの自由な自作を歓迎します。ぜひあなたも この自作情報を参考にして、新しい櫓の世界を体験してください。
無断転載をお断りします。
- episode1
アレを使えないか - episode2
失敗にめげずに - episode3
櫓の近代化の予感 - episode4
これなら楽しめる - episode5
調子に乗りすぎて - episode6
定説を覆す発見? - episode7
最長の櫓に挑戦 - episode8
21世紀初の実験 - episode9
推理と挫折 - NEXT 問題を解決する新しい櫓へ
予備実験「どーだろ:1号櫓」
episode1 アレを使えないか?
2000年の夏の日、思い立って櫓の実験をすることにしました。もしかして、アレを使えないかなと思ったのです。カヌー用のパドルで、先端が曲がったのがありますよね、J-パドル と言いましたっけ? カナディアンカヌーなどで片舷で漕ぐとき、カヌーが曲がるのを修正しやすいというのが売りのとても美しいパドルです。天然の「曲がり材」から造られています。これって‥‥櫓(ろ)の代わりにならないかな?と考えたのです。
そこで、さっそく自作した艇に取り付けて実験をしてみました。このような具合です。(2000/08/25)
なんとなく櫓のように見えませんか?
水面に対してパドルの角度は45度くらいでしょうか。パドルの長さが短いので、こんな感じになりました。漕ぎ手がスターンに座ると、もう少し櫓が水に沈みます。
取り付け金具(櫓臍?)はオールのソケットで代用
漕ぎにくいので金具の位置をセンター寄りに移動しました。
実験の結果は‥‥あまり芳しくありませんでした (;_;) 進むことはできますが、スピードは不足(;_;)、操舵性も悪い、疲れる‥‥惨憺たるありさま。その原因を考えてみました。
・「ろ」が短くて、運動範囲が少ないためか、無駄が多そう。
・「返し」の操作が大変、グリップを握るのに疲れる~ (^^;)
・「ろ」の曲がりが支点の先なので、返しのたびに櫓脚(ブレード)が振れて、渦が生ずる。
・ブレードの幅が広すぎて(?)、効率が悪そう。
一連の自作実験の最初の一歩、失敗作でしたが展望がみえました。
追加実験「これならどーだろ:2号櫓」
episode2 1号櫓の失敗にめげずにもう一歩前進
予備実験の結果に懲りて‥‥全長を前よりかなり長くしました。曲がりの位置も支点(櫓臍)より手元に移しました。(2000/09/10)
原材料は繋ぎ式のオールです。予備実験に使ったパドルと比べると、細長い櫓脚(ブレード)になりました。オールの握りの部分から角度をつけて延長しました、この部分はかなりの曲げモーメントが掛かるので補強には注意が必要でしょう。
ほどよく曲がっている??でしょう。この曲がりが、返しのときにブレード(櫓脚)が自然に捉える筈なんですが‥‥(^_^)?
櫓の返しが楽なように「櫓柄」も付けてみました、見よう見まねです。
「櫓柄」部分のアップ、材料はラワンの角材でかなり粗製濫造 (^^;)、まだ予備実験の段階ですので‥‥。
応急的継ぎ手部分構造アップ! いろいろ角度を変えられるようにと思っても、これ以上曲げると弱くなりそうですね。
取り付け金具は予備実験のものと同じですが‥‥櫓が長くなった分、傾きが小さくなったので、台座部分を削りなおして調整しました。
注目?の追加実験でしたが、結果は‥‥
・予備実験の結果より全般に改善が認められた。特に疲労度が‥‥(^_^)
・特に返しの操作が簡単になった、自然にブレードに角度がつく \(^o^)/
・櫓柄は、↑の角度を保持するのに重要な役割をする。
・推進効率はまだまだの感が、とっても大 (;_;)
これは‥‥実験後の改良作業の一環です。ブレードをさらに長く、幅を狭くしてみようと思い、材料を追加接着しているところ。
こんな具合に幅9センチのラワンの板をエポキシ接着して、元のオールのブレードを細身に切り揃えて‥‥断面を翼型に削ります。 櫓はカンナ屑から生まれる??
こんな感じになりました‥‥3号櫓。ブレード部分は長さ1メートルです。船に取り付けての実地試験は‥‥来週になりそう(^^;) どうなるだ「ろ」?
追加実験「こんどはどーだろ:3号櫓」
episode3 伝統的な櫓の近代化が見えてきた
前の実験でオール部分を接着増設しました、色が変わっている部分がそれです。
こうして長さ290センチの「ろ」が誕生。撮影レンズがやや広角なので、実際より長めに見えています。(2000/09/18)
前と比べると、細身でかなり長いです。お陰で、小さな力でも進むようになりました \(^o^)/ かなりグーです。
こちらが上の面で平面的
こちらは下の面、膨らんでいます。
「ろ」漕ぎ方 教室。下(2枚目)の画像と比べると、船尾が下がって「ろ」が水に潜っています。
「ろ」がまっすぐに置かれた静止の状態
「ろ」が←に動いている状態
「ろ」が→に動いている状態
「櫓腕(ろうで)」の曲がりが「ろ」を自然に傾けているのに注目してください。
バキッ! (;_;) 櫓腕を骨折?
この櫓腕は前の(小さな「ろ」の)ままで補強しなかったので‥‥天罰かぁ?
そこで、周辺部分を作り直して、リターンマッチを試みました (^^;)
今度は丈夫そうでしょう (^_^)
前のはちょっと漕ぎにくかったので、今回は櫓腕を10センチ短くしました。全長では280センチ。(2000/09/21)
漕ぎ方にかなり余裕が‥‥\(^o^)/
実験の結果はまだまとまっていませんが、感触としては‥‥独断と偏見ですが
・「ろ」は小さな力で、長く漕ぐのに適している。往復で推進力が発生するので、得した気分になります。
・前向き、横向き、両手、片手‥‥など漕ぎ方に柔軟性がある。寝ころんだ姿勢でも、食べながらでも‥‥漕げる (^^)v
・ダッシュなどの瞬発力と、最高速度ではオールに軍配があがる。
・コントロールにはちょっと練習が必要だが、微妙で面白い。櫓腕の曲がりが適切だと、自然に「ろ」が傾いて水を捉えることができる。
・波立たず、静かに漕げるのは、神秘的でもある。
・「ろ」は華奢なので、オールのように岸壁を突くなど荒っぽい使い方は無理。
・「ろ」では、急停止ができないが、その場旋回は意外と得意。
・船尾にデリケートな「ろ」を突き出しているので、後方注意が必要。オールは後ろ向きで漕ぐから、前方注意? (^^;)
詳しいまとめは、のちほど‥‥実験はまだまだ続く‥‥請うご期待
しつこく実験「ながいだろ:4号櫓」
episode4 これなら楽しみながら漕げる!実用化に成功!?
追加実験レポート 4号櫓(ながいだ 「ろ」)
全長280センチの3号櫓(こんどはどーだ「ろ」)は、操作のし易い、強度上の心配もない、それなりによくまとまった「ろ」だと思われました。 4メートルの「AD艇」にも分割して容易に搭載できて、邪魔になりません。
しかし、もう少し長くしたらどうなるかと興味が沸き、長さを25センチ延ばしてみました。
ついでに「ろ」の幅を5ミリ細くしました(アスペクト比が高まった)。
先端部が延長されると言うことは「単に面積が増す」のみならず、前より高速で運動することを意味します。 すると予期せぬ事態が起きるかも (^^;)
取り敢えず3号櫓と同じ構造で、ブレードを延ばしました。
上の画像の左上側が「4号櫓」
先端部の色が異なる右下のは「3号櫓」です。
「ろ」は‥‥「造る」と言うより「削る」ものだと認識しました。(2000/10/06)
並べてみると、かなり長い「4号櫓」↑右舷寄りに共用の櫓腕が取り付けられていて‥‥簡単にブレード(櫓脚)を交換できます。
「ろ」の原材料はアメリカの通信販売店「ウエストマリン」が市販している分割式のオールです。櫓腕と櫓脚の組み合わせをいろいろ試すことができるので重宝しました。
この櫓腕は3号櫓で破損したとき、作り直したものをそのまま使っています。
4号櫓ではまたも強度的な不安を抱えての実験となりました。
どの時点で破壊するか?も実験では大切な要素ですから (^^;)。
実験結果の感想としては‥‥
・長い櫓はやはり操船が難しい‥‥しかしすぐに慣れます。
・ストロークは重く、ヨーイングも大きい(船首が左右に振れる)が、スピードは出る。
・水面と大きな角度で「ろ」を取り付けると、速く走る。しかし漕ぎにくい。
櫓腕と櫓脚のジョイント部分の角度を大きくすれば、漕ぐ姿勢は改善されるだろうが、「ろ」の返しの操作で無駄が出るのではないか?(今後の検討課題)
実験と言っても、数値的な測定は難しいです。特に、「効率」となると‥‥素人では「入力側」の数値が測定できません。そこで入力の値は、山勘で自分の体力を「微」「弱」「中」「強」としてみました。この「極めて前近代的」な手法と、得られるスピードを超小型GPSで測定するという「かなり近代的」な手法のコンビネーションで考察をしました。
この結果はこの後のページでまとめていきますが、数値以外の感想をオールの場合と比較して述べさせていただくと‥‥
・漕ぎながら前方を余裕を持って眺めることができる。
・目線が高いので心理的に余裕がある。
・漕ぎ手の頭部が安定している。
・体全体の使い方が滑らかである。
などの理由からか?体力的にも精神的にもリラックスできる。
デメリットとしては「ヨーイング(偏揺れ)」が挙げられますが、速度を犠牲にする程ではないと考えられます。また「ローリング(横揺れ)」も起きますが‥‥ローリングは実は善玉なんです!(@_@; 詳しくは、後述するつもりですが、如何お考えですか?
とにかく‥‥うめき声が出るのが「オール漕ぎ」? 唄が出るのが「ろ漕ぎ」?? ♪♪フ~ネは櫓まかせ、櫓は唄まかせ~
ひとまず、4号櫓までの 実験結果まとめと‥‥顛末(速報)です。一部重複するかもしれませんが、これまでの実験結果をまとめてみます。これは飽くまでも個人で楽しんだ上での見解で‥‥学術的なものではありません。
実験では比較のために短い櫓(3号櫓)、長い櫓(4号櫓)、オール(195センチ1対)を使って、何度も静かな水面を往復して(^^;)、データをとりました。
左が3号櫓、右が4号櫓
オールの場合はいつも取り付け状態は同じで、漕ぐパワーが変わるだけですが‥‥「櫓」は早緒(櫓腕のロープ)の長さによって水面に入る角度が変化するので、データ量が多くなって、収拾がつかないところがあります(^^;)
が、大雑把に扱います。
☆まず、もっとも興味あるのは、最大?速度でしょう (^_^)
50メートルほどをかなり一生懸命(ダウンしない程度に‥‥)漕いでみました。
速度はノットではなく km/h で示します(ノットでは数値が小さすぎるので)。
短い櫓:3.3~4.3km/h
長い櫓:3.5~4.5 km/h
オール:4.3~5.5 km/h
「櫓」の性能を発揮できていない(練習不足または品質不良?)かもしれませんが、ここで見る限り、明らかにオールで漕ぐのが速いです。 特に加速力(ダッシュ)では圧倒的にオールが優ります。
☆次に、持続的に(弱い力で)漕いだ場合ですが‥‥この力の入れ方が難しいのです。
短い櫓:2.5 km/h 前後
長い櫓:2.5 km/h 前後
オール:3.0 km/h 前後
‥‥やっぱりオールの方が速い (^^;) また、長い櫓でも短い櫓でもほぼ同じ速度になるのが面白いですね。こうして速度だけをみると、オールの一人勝ちのようですが、実は他の要素があります。
・オール漕ぎは後ろ向きで、漕ぎにくい。ストロークがぎくしゃくして疲れやすい。両手が塞がっていて、余裕がない。長く漕ぐのは嫌になる(奴隷みたい)。
・櫓は‥‥斜め前向きに構えて漕げるので、見通しがよく、ストロークが滑らか。片手でも漕げるので余裕だ(飲み食いできる)。 楽しい(珍しいだけかも?)。座っても立っても漕げる(オールは立っては漕げまい(^_^))
・「櫓」には、オールにない「自由度」が感じられます。
長い櫓と短い櫓の違いは‥‥
・最大速度は長い櫓が速いが、ヨー(偏揺れ)が大きいので、取り扱いは難しい。
・弱い力で漕ぐとき、速度は同じでも、長い櫓はゆったりと動き、上機嫌。
早緒(櫓腕のロープ)の長さを延ばすと、櫓脚が深く水に入るのでスピードが増す。
しかし、この角度を増しても約40度(眼見当で)を越えると漕ぎにくくなる。
櫓腕をもっと曲げれば、漕げるかもしれないが‥‥櫓の返しに無駄が出そう。
それから‥‥お約束の「ローリング(横揺れ)」についてですが‥‥
櫓を漕ぐとき漕ぎ手の体重移動が、フネを櫓の動きの反対方向に傾けます。
これはあたかも櫓の動きを、フネのロールが加速する様に働きます\(^o^)/
つまりフネのローリングによって櫓の横方向の水中スピードが増す。
このために、より大きな推力が発生して、フネは速度を増す‥‥???
実は↑この仮定?の理論はある詳しい方から聞いたばかりだったので、実験で確かめようと、必要以上にローリングを与えて(櫓は動かさないで‥‥)みました。しかし、体重移動だけして櫓を動かさないというのは無理でした(@_*)☆\(^^;
高速で櫓を漕ぐとき、ストロークを小さくするなどして漕ぎのテンポを変化させていくと、艇のローリングの固有振動数とぴったり合うところがあります。 そのテンポを持続すれば有利に働くことが予想(期待?)されます。
固有の振動数はフネの重さや船型によって異なるでしょうが、実験艇は小型で振動数が高い(細かく揺れる)ので、櫓の動きもちょっと慌ただしいです(^^;)。
そして今回、この推論を証明するデータは得られませんでした (@_*)☆\(^^;
気長にやりましょう。
失敗と復活「ながいだろ:4号櫓」
episode5 調子に乗りすぎて‥‥失敗から学ぶこともあります(^^;)
結局、長い4号櫓がすっかり気に入りました、長い距離をゆったりした気分で進むにはこれが一番と感じられます。徳治郎さんに教わったように、支点(オールクラッチ)部分を海水で濡らすと、ギーギー音が消えて、ついつい調子を上げてしましました。
突然「櫓」が軽くなって‥‥(@_@;?? 櫓が折れました~~~っ (;_;)
折れたのは接着延長した部分で、水中だったので「バキッ」は聞こえなかったみたい(^^;)(2000/10/11)
接着不良が原因でした(@_*)☆\(^^; これを修理したら、少し短くなっちゃうなぁ (^^;)
今回実験に用いた人力推進装置の数々。左から櫓腕(2号腕;1号は破損した)、3号櫓、4号櫓、パドル、オール(1対)。なお、パドルはここでは補助的な道具なので、データはとりませんでした。
破損した接合部を、修理しました。左端のV型の木片は、切り取った破損部分です、新たな接合部はサンダーで仕上げます。
この結果、長さが約4センチ短くなって、全長3.0メートルになりました(新4号櫓)。
ちょっと短くなった新4号櫓は‥‥前より扱いやすくなりました \(^o^)/(2000/10/15)
この写真では前のページの横からの写真と比べると、櫓がかなり深い角度で水に入っています。 深い角度だとスピードは出しやすいですが、反面やや漕ぎにくいと感じます。 その理由は‥‥?? 検討中です (^^;)
突然「みじかいだろ:5号櫓」
episode6 構造上の新たな(定説をくつがえす?)発見!
最新実験レポート 5号櫓(みじかいだ「ろ」)
櫓って、オールと比べると長くて、ちょっと収納などで困ります。そこで今度はもっと短い櫓に挑戦してみました。短くいても力強く漕げる?小型の櫓を目指して「5号櫓」を造ってみました。 (2000/11/09)
櫓脚の長さが170センチ、櫓腕は78センチ
両者を斜めに木ねじで接合しました、具合を見て最終的には接着する予定です。
櫓腕の材料には(これまではラワン材だったが)、強度のあるタモ材を使ってみました。
櫓脚方向から↑(左から4号櫓、3号櫓、5号櫓)
櫓腕方向から↑(5号櫓、3号櫓、4号櫓)見る
3号櫓と4号櫓の櫓腕は共用です。5号櫓は短いけど‥‥大きく曲がっている、櫓の上面の一部が凹んでいる、のが解りますよね。いずれも短い櫓の欠点(効率低下?)を補うことを狙っています、結果は謎ですが(@_*)☆\(^^; それから、5号櫓は分割できない構造なので、予めオールロック(金具)を取り付けた状態で完成させました、この金具は外せません。
5号櫓(みじかいだ ろ)が他の櫓より大きく曲がっているのは‥‥全長が短い分、深い角度で水面と交差して、水中の面積を稼いで欲しいと思ったからです。 しかし、この曲がりが大きいと、櫓を返す操作に問題が出てくるような予感がします。また、櫓の上面の一部が凹んでいるのは、運動速度が小さい手元の方でも、少しでも推力を出して欲しいと、祈るような気持ちで削ったのですが‥‥(^^;)
それからこの写真からは判りませんが、5号櫓は真上から見ても少し曲がっています。それは櫓腕の構造の違いから出た結果(飽くまでも筆者の予想です、掲示板で徳治郎さんからも仮説として提示されています;掲示板第80発言(08/23))と言えます。これまでの(上から2番目の)櫓腕は左右2材を合わせた構造、(上の)5号櫓の櫓腕は単材構造です‥‥そうすると如何なる影響があるのでしょうか(^^;)?
筆者の予想が正しかったら、お知らせします、実験は今週末(11月11~12日)の予定です。予想が外れた場合には‥‥やっぱり報告します~ (^^;)
実験結果の速報です (^^;) (2000/11/11)
結論として5号櫓(みじかいだ ろ)は曲げすぎでした。
改良の様子は次回の実験にてお知らせ予定です。
そして「すごいだろ:6号櫓」
episode7 これまでの最大の櫓に挑戦、でも実験艇がないぞ~(^^;)
まだまだ続く‥櫓の製作実験6号櫓(すごいだ「ろ」)(2000/11/21)
これまでに実験した櫓はいずれも、既製のオールのブレード部分を接着延長して、造りました。予備実験の段階だったので、取り急ぎ各種のデータを採集したかったからです。そこで今度は、5号櫓までに得られたヒントをまとめてみようと、6号櫓を始めました。今度はすべてオリジナルで、既製品は使ってません。
まず、できるだけ長い櫓と言うことで、通常のDIY店で得られる180センチのヒノキ板(幅9センチと6センチのもの、厚みは15ミリ)を3層にエポキシ接着しました(積層)。3枚を重ねるだけでは長くならないので、少しづつずらして重ね、斜めに切って繋ぎます(スカーフ)。それで全長275センチの素材が出来たので削り始めました。櫓はカンナ屑から生まれる!
↑積層の境目が良く見える、こちらは下になる面。
凹みをつけた上の面。5号櫓の実験で凹み部分が力強く水を捉えているような気がして、6号櫓にも採用しました。カンナ掛けがほぼ終わった状態、この後サンディングして塗装します。
エポキシ塗料で塗装しているところ。これで櫓脚部分は完成です、櫓腕をフネのサイズに合わせて造り、繋ぐ必要があるのですが‥‥適当なフネが無いことに、いま気付きました~っ σ(@_*)☆\(^^;
これまでの実験艇(13フィート)では櫓が振れないで、艇が振れてしまいそうです。どなたか、16~20フィート艇を実験のために貸し出していただけませんか (^^;)? 船尾に金具を付ける必要があるので、無傷ではお返しできませんが‥‥。それはそうと‥‥、この櫓を、どうやってマンションから持ち出そう?(@_@; 長すぎてエレベータに載せられない~~。この後‥‥どうなるか?? 予断を許せません (^^;)
今世紀初の櫓「6号櫓」実験レポート
episode8 読者のご好意で実験艇を提供していただきました\(^o^)/
お待たせしました、21世紀最初の実験レポートです。2000年の年末に実験艇として、自作艇「CYGNUS」をお借りすることに決定しました。ご協力のHさん、ありがとうございました。
20フィート艇の船尾の形態に合わせて櫓腕を造りました。(2000/12/29)
櫓腕は、市販のタモ材から削り出しました、長さ130センチです。櫓腕が微妙に曲がっているのが判りますか? 横の小さな木片↑は櫓柄です。先日作成した櫓脚の材料はヒノキだったので、カンナ屑はとても良い香りがして重宝しましたが、この櫓腕の材料のタモ材のカンナ屑は‥‥使い道がありませんでした。
櫓腕完成、かなり細腕ですね(^_^)
伝統的な日本の櫓は重くて、分厚いので漕ぐときに抵抗が生じ、曲げモーメントが大きいですが、 6号櫓(現代櫓?)は薄身(スレンダー?)なので、それほどの太腕は必要ないと判断したのです。
櫓腕(下)と櫓脚(上)を約10度の角度で接合し
20フィート艇の船尾に備えました。20フィート艇の船外機をエンジンブラケットから取り外し、そこに金具を取り付けました。 取り付け金具は、5号櫓のものと同じオールクラッチです。
取り付けた状態を、真横から見る。 バックスティやラダーと接触しないよう取り付け位置には注意が必要です。 「6号櫓」は軽くてよく浮くので、静止状態でこんな感じになります、これでは水面との角度が浅すぎますので、
櫓脚の凹部分まで水面に沈んでくれるよう、早緒(ロープ)の長さを調節します。
20フィート艇と、6号櫓の全景:櫓の全長は約4メートルあります。こんなに細い櫓で大丈夫かなぁ (^^;)?
実験結果の速報です
- おおむね良好でした \(^o^)/ 軽くて漕いでも結構速く(時速3キロ程度)進みます。
- 急激な力を加えると、強度的に危なげなところがあります(^^;)
- 滑らかに、優しく、しかも大きく漕ぐのがよろしいようです。
- もう少し強度を増せば、スピードも上げられそうです、しかしそうすると漕ぎ手の体力が続くかどうか?
- 特に櫓腕と、櫓脚の接合部が心配です。 第1の解決策としては接合部を支点から離すことでしょう。
- この部分には最大の曲げモーメントが働いているので、水中で櫓が、驚くほど大きく撓(しな)ります。 恐ろしげでもあり、頼もしくもあり (^^;)
- 徳治郎さんのレポートによると、この撓りがとっても大切なんだそうです!
- 櫓が軽いので、止めると浮き上がってしまい、早緒がゆるむ (^^;)、そうすると難しくなる。
- 櫓の先に重りを付けて沈めたら‥‥? 重くなるので避けたい (^^;)
以上取り急ぎ、ご報告でした。
それで「ふかいだろ:7号櫓」
episode9 推理と挫折、そして画期的?な問題提議‥‥
しばらくサボっていた櫓の実験を再開しました。今回のテーマは「深い櫓」です。
櫓が水面に入る角度(入水角と呼ぶことにしましょう、勝手ながら)は通常は30度前後と思われます。この角度が定まったのは‥‥推測ですが
1)漕ぎ手の動きやすさ(腰の高さで軽く漕げる)
2)入れ子と櫓臍(ろべそ)の構造上の理由(櫓臍の上に櫓が”ちょこん”と載っている)
上記 1)と2)の理由が重なり合って経験的に確立したのでしょう。しかし推進力だけを考えると、櫓の入水角が(30度と)小さいのは無駄ですよね。もっと大きな角度で入水するならば、推進効率が高まるものと思われます。
それで、今回の7号櫓では思い切って、入水角45~55度を狙ってみました。
上の画像でお解りのように、櫓に発生する推進力(櫓と直角の揚力)がフネを効率良く進めてくれるという期待が湧いてきます。この櫓は薄くて柔軟なので、水中部分は60度くらいまでしなると思われます。
まず第一に、櫓の取り付け金具(オールクラッチを利用:櫓臍に相当する)の角度を深くしました。
そして、接続式の櫓腕を新調しました。立ち上がりの角度が大きいので、短い櫓腕とします。櫓脚は取りあえず以前に作った3号櫓を使おうと思います。
右側の短い櫓が「7号櫓」。左側に参考に並んでいるのは「4号櫓(ながいだろ)」です。どちらの櫓もブレード(櫓の幅が広くなったところ)のところまで水に浸かるのですが、「7号櫓」は先が地面に当たってしまうので、地上で写真を撮ることができません。
櫓腕はさらに短くしました。
早緒の角度も異様ですね (^^;)
これでボートを水面に浮かべると、予想通り櫓が浮き上がってしまいます。GL-Laboで扱ってきている一連の実験櫓は軽量なので、それに入水角が大きいのでやむを得ません。多分、漕ぎ始めれば推力で櫓は沈んでいくことでしょう。
櫓が自身の浮力で浮き上がってしまい、「深いだろ」になっていない状態。早緒もゆるんで締まりがない感じ。
でも、漕ぎ手が船尾に座って漕ぎ始めると、櫓が前進してご覧のようにブレードが沈みます。
早緒もピンと張ってきてフネがぐいぐい進んでくれそうです\(^o^)/
ところが‥‥実際に漕ぎ出してみると、期待したほどには進まない。この様に櫓は深く沈んでいるにもかかわらず(;_;)??どうしてなのでしょうか~~っ?
さらに実験当日は風が強かったこともあり方向のコントロールがままなりませんでした(^^;)
このためスピードの測定も延期としました。
*** 以下 2002年12月14日更新、部分です。 ***
この7号櫓「ふかいだろ」の実験結果には驚かされました σ(@_@)
どうして入水角を深くして、推進効率を高めたにもかかわらずスピードが伸びないのでしょうか?
それどころか、計測するまでもなく体感スピードは落ちる様なのです。
しかしこんな簡単な解決策でスピードが上がるものなら、もうとっくの昔に実現したはずですから‥‥
そこは納得すべきことなのかも知れません。
ここはじっくり原因を調べないことには、これまでの一連の実験で進めてきた理論が挫折してしまうことになります。
ここから先は文章中心になりますが、しばらくご辛抱ください。
昭和9年発行の「舵誌」9月号に藤本武助氏の「櫓の考察」という論文が載っていると知り合いから知らされたので、舵社編集部の資料室を訪れて誌面を読ませていただきました(編集部関係各位にお礼申し上げます)。
その中に面白い記述がありました、つまり‥‥わたしたちは櫓の動きを観察するとき、一般に櫓が水を掻いている部分に注目しがちですが、この論文では櫓が水を掻き始めるとき、そしてストロークを終えて反対方向に戻ろうとするところにも注目しているんです。
この視点は、わたしにとって大変画期的な考え方に思えました、眼が醒めた思いです。今後この反対方向に戻る部分を「ターンオーバー」と呼ぶことにしましょう。 漕ぎ手から見れば「ターンオーバー」は「返しの操作」と言うことになります。
その後現代に至るまで、櫓の研究は大学の研究室などで長い期間続けられているようですが、この「ターンオーバー」を研究した論文にはほとんどお目にかかりません。
そこで、まずは「ターンオーバー」の流体力学‥‥
ターンオーバーはまず櫓の速度が減速することから始まります、できることなら減速は避けたいのですが、反復運動するには減速するしかありません。そして速度がゼロになるのです。減速による推進力低下を避けるには、減速に伴って櫓のピッチを増大すれば良いのですが、そのような操作は熟練した漕ぎ手でも不可能です。
つまりストロークの速度が減少し始めた時点から推進力は減り始め、やがてゼロになり、ストロークが止まって向きを替えるところでは完全に抵抗になっているんです。
このへんの水の流れをもう少し詳しく観察してみよう。
1)ストロークの中盤では、もっとも効率よく揚力(フネにとっては推進力)を発生している。
2)ストロークの後段:スピードが下がり迎え角(水流との角度)が減るので、揚力を発生しない。
3)ターンオーバー前後:減速の途中以降は抵抗を生じ初め、ストロークが止まってターンオーバーの中間点で最大の
抵抗が生じる。そして次のストロークが開始されるまで抵抗を生じ続ける。
「櫓」の優れた性能と機能について:
オールとか、パドルとか手漕ぎの方法は幾つか存在しますが、櫓は流体力学上の揚力を推進力としているところが手漕ぎの方法の中でもっとも近代的で、機能的といえます。 翼に生ずる揚力は理想的な条件ではそのときに生ずる抗力の10倍以上も発生するからです。
漕ぎ手が「櫓」の抗力に逆らって、手元側の櫓の先端(櫓腕)を横向きに漕ぐと、櫓の船尾先端(櫓脚)で揚力はその漕いだ力の約10倍生じるということです。 その揚力が推進力として船尾に伝わるが、早緒(ロープ)がその推進力を(櫓の支点とともに2カ所で)支えるので、漕ぎ手はこの強い揚力を腕先に感じることはない、つまり軽く漕げるのです。
早緒が揚力を全面的に受け止めて船を推進するところがとても重要です。
また櫓は他の手漕ぎ装置と違って往復運動の双方向で推進力を発生するので無駄がない。
他の装置では、水をかいた後に前方に戻すときの空気抵抗が馬鹿になりません。
一般に「櫓漕ぎ」は難しい操作と考えられていますが、実際やってみると言葉で説明を聞くよりはるかに簡単です。
適当な迎え角をつけて漕ぐのですが、櫓の往復運動の反復点において、「へ」の字形に曲がった櫓は自然に適切な迎え角をとることができるのです、いわゆる「櫓の返し」の操作が驚くほど滑らかに行われます、「へ」形状は日本の櫓の最大の特徴で、先人の知恵に驚かされます。
手漕ぎの難易度を表す言い習わしで、昔からの船頭達の間では「櫂(かい)は3月、櫓(ろ)は3日」とも言われているそうです。その後さらに「竿(さお)は3年」と続くのだそうですが‥‥。とにかく櫓は簡単です。
この様に優れた推進装置である櫓は、幕末の頃アメリカのペルー使節などにより欧米に紹介された筈ですが、残念ながら世界的な普及を見るには至りませんでした。普及に至らなかった理由は文献などには表されていないので推測の域を出ませんが、櫓で推進される船の速度がオールで推進される船に対して劣っていたからであろう‥‥と、筆者は推測します。
優れた理論に基づいた櫓が、実際には高速で進まないのは何故なのか?
筆者はこの疑問を解明すべく、これまで11本の櫓を自分で作り、自作のボートなどに取り付けて実験を重ねてきました。
いまでは伝統的な「櫓」を再現することは材料(樫の丸太など)入手の関係で無理なので、近代的な木造構造(接着による集合材)とし、形態も自然とプロペラのブレード(羽根)に近い形態になってきます。
そこで解ったことは、操作が滑らかで、片手で前を向いて漕ぐことができ、低速での効率が非常に高く(軽く漕げる)、楽しいと言うことです。同じ速度をオールでもって漕ぐと、後ろ向きなので不便で、首が痛くなり、体の運動もギクシャクして不快です。常に両手がふさがっているので飲み物も摂れません、つまり奴隷のような気分になり楽しくありません。
しかし櫓の場合、船の速度が大きくなると、それに伴う櫓の返しの操作(ピッチ角の変更)量が増大するため、反復点で非常に大きな渦を発生し推進効率が低下してしまいます。船の速度の増大に伴って渦はますます過激に発生するので、櫓による推進では高速の航行ができないということになります。
問題の解決は‥‥返しの操作のとき過大な抵抗となる渦を生じさせないことである!
では、そのためにはどうすれば良いでしょうか?
以下のように幾つかの方法が考えられます。
案1 櫓の返し操作を水中で行わないようにする。
例えば、櫓を水面上まで振り上げて漕ぎ、水面を出たところで返す。
派手な操作になりそうですね (@_@; 船頭ずぶ濡れ!?
案2 返し操作そのものを行わないようにする。
例えば、櫓を同一方向だけに、グルグル回転させるように漕ぐ (@_@;
超派手な操作になります、漫画チック??
ご想像の通り‥‥これらの2例は理論上は可能ですが、実際には無理でした (;_;)
そして、新しい櫓の発明へとつながります。