【究める】櫓の研究活動

新しい櫓が誕生するまでの温故知新の取り組みを紹介します  

「GL-Labo」は、2002年〜2004年にかけて高効率で推進力の大きい「新しい櫓」を世に出しました。多くの方々のご協力による伝統的な櫓の調査と、独自の研究を経て誕生した新しい櫓「AD-Scull」と進化形の櫓「ADf-Scull」の誕生のストーリーを紹介します。無断転載をお断りします。

  

 1. 伝統櫓の調査

1997年、フネの自作に励んでいた筆者は「櫓(ろ)」について興味をもちました。関連文献によると、船の手漕ぎ装置である「櫓」は、鎌倉時代までに中国から日本に伝わったとされ(諸説あり)、 その後、江戸時代の前期までに少しずつ改良されてからは、現代までの約400年もの間はほぼ同じ形状を保っていることからすれば、櫓は、完成度の高い推進装置であると想像できます。ちなみに、「櫓(ろ)」は、ボートで使われるオールやカヌーでつかわれるパドルが該当する「櫂(かい)」と同じ、フネの手漕ぎの推進装置として仲間ですが、原理的にはまったく異なります。櫓の調査の手始めに、国内の博物館を訪れて、実物を観察することにしました。 

 櫓漕ぎの様子

 

(1)東京都大田区郷土博物館

大田区多摩川河口から羽田沖にかけて、かつて海苔養殖に活躍した作業船の人力推進装置

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一番左が櫓(ろ)(中央は「突き櫂:作業用」右は「道中櫂:航行用」) 

 

 

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櫓腕の先端部  櫓腕、櫓脚の接合部 入れ子部分一部欠損)

 

櫓(ろ)の実寸計測結果

大田区郷土博物館発行「重要有形民俗文化財 大森及び周辺地域の海苔生産用具」から転載(許可済み)

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櫓と櫂の話し

大田区郷土博物館発行「博物館ノート」から転載(許可済み) 

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櫓をこぎ、櫂をさして操船する姿は近年ほとんど見られなくなった。昭和37年に東京港の港湾整備に伴い漁業権が放棄されるまでは、大田区沿岸には多くの海苔養殖や漁業に携わる船があった。今も、多摩川河口の羽田には自由漁業に携わる木造の漁船が係留されており、往時の面影を留めている。しかし、どの船も動力機関で推進力を得ており、櫓や櫂を備える船は無い。かつて大森に3軒、羽田に1件あった櫓屋あるいは棒屋と呼ばれた櫓櫂作りの職人もすでに転業しており、現在では東京周辺を見てもほとんどそうした職人はいなくなってしまった。漁業権放棄に伴う漁船の激減の後、区内での櫓櫂の需要は無くなり、櫓屋の転業も已む無く。横浜・船橋などから注文を受け営業を続けた者も、昭和50年頃には転業し、大田区内の櫓屋の伝統を閉じたのである。そこで区内で最後の櫓屋であった杉原伝造氏(屋号「櫓漕」)の櫓櫂作りの一端を紹介する。


櫓の形は「への字」
 櫓の特徴は2本の別の材を接合させて造られることである。それも少し曲げての接合である。こぎ手の持つウデの部分に、水中で水を掻くロスソの部分がおじぎをした形で「への字」に曲げてつくられ、されに水平方向にもいく分曲げられる。こうしたウデとロスソが折れ曲がった形をとるのは、船上での操作のしやすさと水中での櫓の動きを効果的にするためだといわれる。水平方向への曲がりは僅かであり、見落とす程度である。この曲がりは、船べりでこぐ櫓の水を掻く力を後方へ向くようにするためである。直線状では船べりから出たロスソと船の間が開き、力は後方へ向かない。そこでロスソを船べりに近づけるように曲げているのである。曲げる向きは左右どちらの船べりでこぐ櫓であるかによって決まる。一丁櫓でこぐような小型舟はトモ(船尾)か、トリカジ(左舷)でこぐので、上から見た櫓の形も「くの字」に曲がったものとなる。小型舟の多い大森や羽田では、この曲がりの櫓が多かったのである。

 

 

 

<特別レポート>「ろ」がいっぱい

伊豆の伝馬船・徳治郎さんから素晴らしいレポートをいただきました。今でも「櫓」が使われている…貴重な画像をご覧ください。

櫓(ろ)がズラリ 徳治郎さんの特別レポート(写真と図の提供:徳治郎さん)

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徳治郎さんの郷里の伝馬船 

 

徳治郎さんのお知り合いの「櫓」 

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同 採寸図

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以下:数々の「入れ子」と「櫓臍(ろべそ)」のカップル?の例(左右で一対)   

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(2)千葉県立安房博物館(現・渚の博物館(館山市立博物館分館))

「ろ」がずらりと陳列\(^o^)/

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櫓腕と櫓脚のジョイント部

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入れ子(これは普通の‥‥) こちらは2連の入れ子、使い分けるらしい。 

             

櫓台と櫓臍(ろべそ)

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いずれも、櫓台の上で転がりやすい?ような形をしている。入れ子が飛び出さないように?左右に動きが制限されている。徳治郎さんの伊豆地方の櫓台には、この留め具がないですね(^^;)?そのかわり、千葉の入れ子の円弧は大きい‥‥だから?外れやすい???(独断と偏見です)

 

櫓の使い方いろいろ 

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漁師が片手で「櫓」を操る。「櫓」は短めなので水面との角度が大きい。

 

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速そうな八丁櫓舟。後ろにも「ろ」があるから九丁櫓という??

 


(3)江東区親水公園(「櫓」の生きた博物館) 

東京都江東区横十間川親水公園にて 和船友の会のご協力(2000/10/18) 

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この全長約9メートルの和船を、たった1本の櫓で自由に動かせるなんて‥‥とてもオールでは出来ないことです。


「和船友の会」の会員の方の見事な模範演技

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上の左の写真は、これから櫓(櫓腕)を手前にひく体勢です。右の写真は、引き終わって櫓(の角度)を返し、押し始める体勢です。僅かな変化ですが、櫓の角度が異なるのが判るでしょう。

 

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上の写真は、後方からの櫓漕ぎの様子です。豪快な漕ぎ。慣れない人は真似しない方が無難かもと思うような力強さです。 


 

 

「脇櫓」 

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こちらは「脇櫓」の妙技。舷側にカンコと言う横木を出して、そこに櫓を取り付けて漕ぎます、名人が漕ぐと船はまっすぐに進みます。 脇櫓に対して、船尾で漕ぐ普通の櫓を「艫櫓(ともろ)」と言います。(2001/01/15)

「艫櫓」と「櫂」

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こちらは「艫櫓」と「櫂」の絶妙のコンビネーション!この技を使うと、船を止めたり、バックさせたり、横這いさせたりできます(2001/01/15 追加分)

 

「櫓臍(ろべそ)」と「入れ子」

櫓と舟のジョイント部分(入れ子と櫓臍)に注目して、秘密を解き明かしてみようと思います。

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↑:櫓腕が押されて→に動き始める瞬間、櫓臍(櫓杭とも言う)が覗いている。

 

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↑:櫓腕が→に移動中、櫓台の上で入れ子が滑りながらねじられる。

 

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櫓腕が右手に押されきって、返された瞬間。櫓台の上で、入れ子がころりと転がる(@_@;。続いて櫓腕が左方向に引かれる。外れそうで外れない‥‥実に神秘的な光景であります。

 

船の進行方向右横から観察

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画像をよく見ると、櫓臍は入れ子の穴に接していません!櫓は舟を右方向に押しているのですが、それは櫓臍を押しているのではなく、櫓台を右下方向に押していると推測できます。櫓臍はただ櫓が外れない様にしている「ガイド」と言えるのかもしれません。

 

下の写真は、入れ子部分のクローズアップ画像です。回転面の左右に微妙な差がある‥‥らしいのです。

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 筆者も初めて本物の櫓を漕がせてもらいました。これまで疑問だった点が少し明らかになってきましたが、まだまだ奥が深そうです。「和船友の会」のみなさま、ご協力をありがとうございました。それから江東区の粋な和船保存活動に感謝します。ろかいの会では、櫓櫂に関する用語をまとめました(→ろかい用語集

 

その後、GL-Laboは櫓の製作と実験を重ねました。

 

 2. 櫓をつくってみる

櫓の自作実験の結果を紹介します。 この情報を参考にして、ぜひ櫓の世界を体験してください。自作実験の過程は盛りだくさんなので、別ページでまとめて紹介します。> 自作実験の過程を見る 

 

 

 

  

 3. 新しい櫓「AD-Scull」の発明

そして、2002年、GL-Laboは、それまで学会では認知されていなかった「伝統的な櫓が抱える潜在的な問題」を明らかにした 世界初の研究成果を発表しました。その提案が「AD-scull」です。

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AD-Scullはこのような形状をしております。見た目の特徴は、櫓の面が(静止状態で)垂直であることです。この垂直の位置を中心にして左右に櫓面が振れます。魚の鰭と同じ動きです。(図の櫓は軽量のため浮き上がっていますが、漕ぎ始めれば自然に推力で沈みます。) そして、AD-Scullは、伝統櫓のように「返し」(ブレードの回転時に発生する抵抗波)による乱流を生じないことが機能上の大きな特徴です。なぜそうなるのか?・・・いろいろ想像してみてください。 そして、アマチュアの方はぜひ自作して試してください。

 

 

ご注意:「AD-scull」に係る知的財産権は当「GL−Labo」が所有しています。 アマチュアによる非営利目的の自作は自由ですが、業者の方などが営利目的で製作、販売することはできません。

 

 4. 櫓の周りの流れをみる

伝統櫓では「返し」が非常に大きく、この傾向は艇の速度が大きくなるとますます顕著になり、 高速で走ることが困難になります。一方、AD-scullではこの様な有害抵抗が発生しないため、 高速で走ることができます。 水中動画をご覧ください。

【伝統的な櫓】 【AD-scull】



 

 5. AD-Scullの原理

次に、AD-scull の原理と仕組みを理論的に説明します。 まず、水中の櫓の動きを可視化してみましょう。 注目していただきたいのは、櫓が左右に動きを切り替える(返し)瞬間です。

 

【伝統的な櫓】
【AD-scull】
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「伝統櫓」では高速域で非常に無駄な角度変更を行っています。 これに対して「AD-scull」では(伝統櫓とは)反対方向に角度変更を行いますので、その変化量が 非常に少なく、しかも渦(抵抗)の生じない向きに廻るのです。 この「返しの領域」をさらに詳しく検証しましょう。

今度は櫓の位置を固定して眺めます。 すなわち、櫓から見たら周りの水はどう流れているかを図示してみます。上の櫓の動きの図を対照しながらご覧ください。

 

【伝統的な櫓】
【AD-scull】
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返しの操作(B位置)での水流の違いは、一目瞭然ですね。



特徴その1.「層流」であること

上記のAD-Scullの原理で示すように、高いレイノルズ数で発生する乱流を発生させないということが1つ目の特徴です。乱流と層流という用語を使う場合、 伝統の櫓を「乱流櫓」、新しく開発した櫓を「層流櫓」と呼ぶことになります。しかし、従来の和船での櫓の操船を考える限り、伝統の櫓の完成度は究極の域にあり、最高の手漕ぎ装置であることは間違いなく、なにより「層流櫓」は伝統櫓があったからこそ生まれたことを考えると、伝統櫓を「乱流櫓」と呼ぶのは不適切です。GL-Laboでは、2009年2月に「層流櫓」を「AD-scull」と改称しました。

 

AD-Scullの動き

 


特徴その2.「V」字状の曲がり

AD-scull の第2の特徴である「V」字状の曲がりについて説明します。 第2の特徴としますが、伝統櫓と最も違った感じを受けるのがこの「V」字状の曲がりであるかも知れません。

 伝統櫓では「へ」の字状に曲がっています。 伝統櫓の「曲がり」の理由について、通説(学説?)では、「櫓先を深く水中に入れて推力を稼ぐことができること」と「漕ぎ手の手元で櫓腕が都合の良い高さに来ること」となっているようです。

 GL-Laboは櫓の自作実験を経て独自の研究により、櫓の曲がりは「櫓を自然に回転させるため」にある(使える)! と結論づけました。どういうことかと言いますと、下の画像をご覧ください。

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ブレードは水中では水の抵抗のためこの軸廻りに回転を起こしやすいのです。 ですから、アームを左右に動かすと自然に回転が起き、正しい迎え角の方向にを導きます。 またロープ(早緒)は迎え角を適切に制御する働きがあります。この様に「V」字状の曲がりは ブレードが返しの操作で自動的に適切な迎え角を作るのを助ける働きがあるのです。 曲がっていないと、かなり難しい操作になります。この回転方向こそが AD-scull を漕ぐのに重要となります。ちなみにこのAD-scullの形状の場合に、伝統櫓のように「へ」の字状に 曲がっていると、逆方向の回転が生じて船は後進します。 

 

特徴その3.「スラストロープ(早緒)周りの形状」

まず、この「AD-scull」に関しては、伝統的な名称を使わないと宣言しています。 伝統櫓での「早緒」という名称は実に素晴らしいもので、まさに、言い得て妙! この早緒が無かったら、漕ぐたびに櫓腕が飛び上がってしまい、素人にはとても扱いにくい手漕ぎ装置となってしまいます。 ちなみに筆者の推測ですが、初期の段階では「早緒」は存在しなかったと考えています。 欧米にはボートでの補助的な手漕ぎでスカリング(sculling)という漕ぎ方があります。 オールを船尾から斜めに突き出して狭い水域などでチョコチョコと機敏に動くことができます。しかし応急的に漕ぐので早緒はありません。

 しかしさらに本格的に(大型の)櫓を漕ごうとすると、櫓が発生する強力な推進力が櫓先を押し下げるので、 漕ぎ手は持ち上げられてしまいます。 その推進力は漕ぐ方向の(横向きの)力の10倍ほど発生します。この推進力をロープで支えるので、 漕ぎ手は強力な推力を実感することなく優雅?に(片手でも)漕ぎ続けることができるのです。このロープのあることで、船の速度性能が大きくアップするので「早緒」と名付けられたのでしょう(筆者の独断)。

 その機能上の特徴をふまえて、GL-Laboでは「AD-scull」の早緒のことを「スラストロープ」と呼ぶことにしています。 AD-scull の場合の「スラストロープ」の特徴は、アーム(櫓腕)の下側に取り付けられたスティック(櫓柄)の先に繋がっていることです。 上の画像でお解りのように、スティックの先端の位置は、図示した回転軸に近いのです。

 言葉だけでの説明は難しいですが‥‥アームを横に動かして漕ぎ始めるとまず「V」字形状のおかげでAD-scull が回転軸周りに回転して、水を掻く方向に向きます。 しかし実は放っておくと90度近く、まったく水を掻かない(抵抗の少ない)角度まで回転して、落ち着こうとします。しかしその過程で推力が発生してスラストロープが 緊張します、これはAD-scull が回転し過ぎない方向に引き戻します。この働きは伝統櫓の早緒には見られない、まったく新しい機能です。

 つまり、伝統櫓における「早緒」は推力を一手に引き受ける頼もしい働きものですが、AD-scull の「スラストロープ」は、推力を受け止め、しかもブレード(櫓脚)の面を適切な角度(迎え角)に保つ、というインテリジェントな知恵者でもあります。

 

AD-scullの漕ぎ方です、軽く支えて無心に左右に揺らします。

無理に回転させず自然に任せます。スラストロープが緩まないように、少し引き上げ気味に持つと良いです。実際漕いでみて解ったのですが、AD-scull は返しの操作が伝統櫓より簡単です。どれくらい簡単かと言うのは表現が難しいのですが、「まったくの初心者でも最初から75点くらい取れる」といった印象です。

以上が「AD-scull」の基本理論の説明の総てです。

 

 6. AD-Scullをつくってみる

簡単に自作できます。基本は伝統櫓と同じです。 櫓の寸法というのは、使用する艇に固有のモノですから、ご自分の艇に合わせて決めてください。 考慮すべき諸元は‥‥ 

・艇のトランサム(船尾部)の水面からの高さ
・漕ぎ手が立つ場合は足場の高さ、座って漕ぐ場合はベンチの高さ
・トランサムから漕ぎ手の手元までの(前後方向の)距離
・漕ぎ手の身長、または座高(座って漕ぐ場合)

などです。最初は簡単な模型でサイズを検討することをお奨めします。 わたしの11号櫓(自作実験での製作番号)での例です。素材、形状などは各自で工夫してください。 新しいアイディアを発見されたら、お知らせください。

 

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櫓脚(ブレード)の素材を積層しているところ。材料は15ミリ厚のヒノキ板、ブレード部の幅は90ミリ.細い部分の幅はは45ミリ、 ちょうど3枚分の厚みと同じなので手元では正方形になります。エポキシ系接着剤を使って積層します。

 

 

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接着剤の硬化を待ってクランプを外し、削り出しの準備。画面上部に小さな角材が追加接着されているのはブレードの厚みががこの部分では足りないからです。

 

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カンナで豪快に?削ります。このカンナ屑をお風呂に入れるとヒノキ風呂の風情(^_^) 伝統櫓との違いは、上下面の区別なく対称形にすること。 この画像では左側ですが、前方をやや丸く、後方(右側)を薄く仕上げます。

 

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櫓腕(アーム)を削ります、この素材はタモ材です。 櫓柄(スティック)もしっかりと取り付けます。 伝統櫓と違って、このスティックには抜ける方向に力が掛かるので、確実に取り付けます。 タモ材のカンナ屑はお風呂に入れても風情はなく、 家族の評判はさんざんでした (;_;)

 

 

 

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ブレードとアームを約10度の角度で繋いで完成! 繋ぎ方は‥‥この画像を参考にしてください。 この画像は左から通算9号、10号、11号櫓です。 試作 AD-scull としては1号、2号、3号櫓となります。 右端に参考のため4号櫓(長いだろ)を並べました。 伸ばした巻き尺は2メートルを示しています。 9号櫓にはアームの上側にスティックがありますが、 実験の結果、下側に移動します(この画像では上下双方にスティックがあって、試行錯誤)。試作の3本の「AD-scull」はいずれもオールの金具を取り付けています。 高度なユニバーサル・ジョイントが使えれば、性能は向上しそうですが‥‥ 試作段階ならオール金具で十分と思われます。 この金具は AD-scull のどの位置でも支えられるので、長さの調節などでは好都合です。

 

ご注意:このページでは従来の部分名称を変更してカタカナ表記にしています。 AD-scull では従来の伝統的な櫓の名称を引き継がない‥‥という試みの表れです。

 

  

<猿でも漕げるAD-Scull> 

「AD-scull」がテレビに初登場!(2006年3月)

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2006年2月26日午後8時からの 全国ネットのテレビ番組「どうぶつ奇想天外!」に「AD-scull」が登場しました。「猿でも櫓が漕げるか?」という趣旨の検証実験でした。「AD-scull」は「高速で漕げる櫓」として開発されましたが、その開発過程で思いもよらず「とても漕ぎやすい櫓」であることが判りました。

 

番組内の動画

 

今回のテレビ番組では、この「漕ぎやすさ」(のみ)が注目された訳で‥‥「GL-Labo」としては、やや不本意な取り上げられ方ではありますが、面白い企画なので全面的に協力しました。

AD-scull だけでなく、元祖GL艇「MD2」も友情出演しました(^_^)

撮影は茨城県の「ワープステイション江戸」と言うロケ地で、撮影は1日がかりでしたが放映されたのはたったの3分でした。しかし非常に面白い事実が判明したので、ここで紹介します。

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まず、一般的な話ですが、櫓を漕ぐ時に大切な「早緒:スラストロープを緩めない」と言うセオリーがあります。これを人に説明するのは簡単です(実行は簡単でない)が、猿に教えるのは困難です(^^;) 上の画像ではその「早緒」が緩んでいるので‥‥舟と櫓は揺れているが、進んでいません (;_;)

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そこで、早緒の材料をロープからこの真鍮パイプに変更しました。パイプは2重構造になっていて、幾つかの穴にピンを通すことにより長さが調節できるのです。

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これにより「緩む」ということが無くなって、かなり進展が見られました。しかしまだ「返し」の操作がぎこちないのです、上の画像では調教師の村崎さんが手を添えています(つまり”人”が漕いでいる)(^^;)

そこでもう一工夫して、真鍮パイプの早緒と層流櫓のアーム(櫓腕)をビニールホースで繋いで、滑らかに返るようにしてみました。すると、↓ついに成功!たしかに「猿は舟を漕げる」と実証しました \(^o^)/

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お断り:このページの画像は「GL-Labo」が独自に撮影したものでテレビ画面とは異なります。

 

AD-scullの研究は、その先へ

 

 

 

 7. さらに優れたADf-Scullの発明

「GL-Labo」は画期的な「AD-scull 」を2002年12月に初めて世に送り出し、多くの反響を受けました。その後も研究を重ねてさらに効率の良い櫓を追求してきました。 そして2004年に、またしても世界初の「これ以上は考えられない、究極の櫓」を発表しました。 

それが、「AD-scull」を改良した「ADf-Scull」です。

 

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ADf-Scull の全景

 

ADf-Scullは、AD-scull の先端に、この写真にあるような、取り外し可能な「フィン(尾翼)」を取り付けます。「AD-scull」は伝統的な櫓の持つ「高速になるほど乱流が増大する」という問題点をクリアーした画期的な近代櫓ではありますが、よく調べてみると櫓の先端で部分的に乱流が発生している事が判りました。これは櫓の先端部分と手元部分とでは(回転半径の違いから)左右に振られる速度が異なるのに、舟の進行速度は一定なので、櫓の部分部分によって水流を受ける角度 「迎え角」が微妙に(かつ連続的に)変化する事に拠ります。

 

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ADf-Scull の先端部のクローズアップ

 

曲がった飛行機の様ですね。実は‥‥飛行機と同じ原理なのです。AD-scull の先端にこの画像のようなフィンを取り付けることで、先端部分に生じる部分的な乱流を取り除き、 全域に渡って理想的な推力を生み出します。先端部は運動速度が速いため、抵抗が特に大きいので、この領域の改善は非常に効果があり、AD-scull がさらに軽く漕げるようになり、当然スピードも目に見えて増します。

AD-scullとADf-Scullの水中動画をそれぞれご覧ください。

AD-scull ADf-Scull(with tip twisting fin)

 

原理的には櫓に生じる捻れ(ねじれ)を利用しています。「捻れ」に着目したのは、当サイト内の掲示板*などを通じて「GL-Labo」にお寄せいただいた皆さまからのご意見がきっかけでした。皆さまのご支援に心から感謝いたします。これからも「お問い合わせ」や「Facebook」にてご意見、ご質問などをお寄せ下さい。(*掲示板は2020年4月30日で運営を終了)

 

さらに櫓の運動を詳細に調べると‥‥深みにはまってしまいますが、ご参考までに。

 

 ADf-Scullの理論 (初刊:2004/01/04、01/06 加筆)

2003年の年末に発表した「ADf-Scull」の詳細を解説していきます。どうぞじっくりご覧ください。 

 

2002年年末発表の「AD-scull」は画期的です。しかし究極的とは言えないことが判りました。これまでの「伝統櫓(乱流櫓)」の速度領域より一段高い領域に踏み込むことによって、今まで重要視していなかった問題に突き当たったのです。

まずは下の図をご覧ください。

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櫓の部分部分で水の流れの角度が異なる。さらに流れの速度も違うことが判ります。つまり先端ほど水流の角度(迎え角)が大きくて、速度が大きい。この様に、櫓の部分によって相対的な水流の角度と大きさが異なるのです。これは櫓の先端部分と中ほどの部分とでは流体力学的に違う状況にあると言うことです。にもかかわらず、櫓は手元から先端にかけて直線的であるので、複雑な無駄が生じるのです。

 

もう少し詳しく観察しましょう。

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面白い曲線でしょう!これは外界から層流櫓の先端部分と、中ほどの部分との軌跡を観察した図です。

段々船のスピードが増すので複雑な曲線になります。 

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上の図のままでは解りにくいので、2本の曲線を重ねて並べてみます。

低速の領域(左側)と、高速の領域(右側)とでの両曲線の傾斜の違いに注目してください。この図で解るように、櫓の先端部と中ほど部のそれぞれの曲線の傾斜は‥‥低速域ではあまり違わない(無視できるほどの違いがある)が、高速域ではかなり(顕著に)違いがある!

 

この傾斜の違いがどういう問題を引き起こすかというと‥‥ブレードは適切な迎え角(水流に対するブレードの傾き)で漕がなければならないのに、櫓は構造上直線状(ねじれがない)なので、どの部分も迎え角が違ってしまうのです(@_@;

 図で解るように、低速域ではほとんど何の問題も生じませんが、高速域に入ると顕著になります。つまり先端部では迎え角が過大になって抵抗値が増し、揚力(推進力)が低下してしまいます。つまり先端失速(または翼端失速)という状態に陥ります。先端部分は動きも速いので、失速するかしないかで効率が大きく異なり、失速を防止できれば推進力は顕著に増加します。

 この問題を解決しようと思うなら、どうしても櫓のブレードに捻れ(ねじれ)を与えると良いのです。飛行機のプロペラーを良く観ると、先端部ほど角度(ピッチ)が小さくなって、美しい曲線を描いていますね。 

 

飛行機のプロペラーの例

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ここではプロペラーを裏側から見ています。裏側から観察した方が櫓を考える時、理解しやすいのです。このプロペラーは先が右向きに回転します。先端速度が速いので、捻れが小さくなっているのが判ります。

しかしプロペラーの回転方向は一定ですから、捻れを与えれば問題解決になりますが、櫓の場合は回転方向がストロークごとに入れ替わると言う重大な障害が立ちはだかります (^^;)

そこで櫓のストロークごとに捻れを入れ替える、しかもそれを自動的に瞬時に実行させたいのです。

 

この↑夢のようなインテリジェントな?櫓が実現しました!

↓「ADf-Scull」です。

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このAD-scull の先端後部に取り付けられた小さなフィン(取り外し可能)が、過大な迎え角を検知して、接続アームを介してテコの原理でAD-scull の先端を捻り下げる(迎え角を減らす)のです。

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上の図では過大な迎え角による乱流が生じているが、後方のフィンにより矢印方向の曲げモーメントが働くので、ブレード先端が捻られる。下の図は、捻りによって適切な迎え角に変わり、乱流が消えた(層流になった)状態。

注:この場合、揚力係数だけを考えると、上図の方が係数が高い場合もある。しかし抗力係数も急増しているので、重くて速く漕げない。下図では軽く速く漕げるので、結果的に高い揚力(推進力)が得られる。

 

捻りの値はわずか数度に過ぎませんが、失速という現象はほんの2~3度のところで起きているのですから、とても有効で、この結果漕ぎ手は櫓先が軽くなるのを実感できます(推力も増加するが、手には感じない)。この様にして、高速域で有効な「AD-scull」は更に有利な「ADf-Scull」に進化しました。

 

それでは「AD-scll」を「ADf-Scull」に変身させるにはどんなサイズのフィンを取り付ければ良いのでしょう?まだ実験の最中なので定量的な事は申し上げられません m(_ _)m

 

しかし、定性的な目安としては‥‥

1)AD-scull 自体の捻れ(ねじれ)を利用するので、先端部は強度と供に柔軟性を持たせます。

2)フィンの面積はAD-scull からの距離との相関関係がある。離れていれば面積は小さくても良い。

3)しかし離れすぎると返しで破損しやすいので、程々の大きさがよい。

4)フィンの取りつけ角度は水面と直交する程度が効率がよい。

5)フィンの支持部(まだ名前がありません)は曲げモーメントに耐えられ、また横方向の抵抗が少ない形状であること(実例画像を参考にしてください)。

‥‥などが考えられます。


以下はごく簡単に。

  • 櫓先の運動の軌跡は、水面上では直線的なジグザグと考えられているが、実際は(サインカーブのような)波状曲線に近い。
  • さらに細かく観ると、波状曲線ではあるが、綺麗でなく少し歪んでいる。なぜなら、船は一定方向に移動し、櫓先は円弧を描いて往復運動するからである。
  • 櫓の水中での動きを観察する場合は、櫓先だけでは不十分であり、もっと全体を眺めなければならない。と言うのは、船の前進速度は固有の数値だが、櫓の往復の速度は位置により違う。


つまり、ブレードの部分部分ですべて迎え角が異なっている。 このため、有効な推力を発生しているのはブレード全体のわずか1/3?程度で他の部分は推力を発生していないし、部分的には有害抵抗になっている。
ここまで考えてみると、飛行機のプロペラの姿が眼に浮かびますよね。 プロペラは、根元から先の方に向けて美しくねじれています、このためどの部分も有効な推力を無駄なく発生できます。 櫓にも理想的なねじれを与えれば、驚くほど性能が向上します(独断)。 しかし悲しいかな、伝統櫓はブレードの進行方向が、AD-scull は迎え角の方向が入れ替わる。 だから普通の材料でねじれを与えられた櫓は、往復運動ができない。 形状記憶合金などを使ったら、ねじれが入れ替わるような究極の櫓が出来るかな?

 

ご注意:上記の「ADf-Scull」の知的所有権は「AD-scull」と同様に 「GL-Labo」が所有しています。アマチュアまたは研究者による自作はご自由ですが、業者の方等による営利目的の製作はできません。

 

 

 8. 驚異の前後漕ぎ

一人で二本の櫓を漕ぐ!米国・英国・NZでのAD-Scull特許取得記念企画

AD-scull には「とても漕ぎやすい」という特徴がありました。ここで紹介するのは、1人の漕ぎ手が両手に各1本(計2本)のAD-scull を 扱う「前後漕ぎ」です。この漕ぎ方は、これまでの伝統櫓では考えられないことでしょう!

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「前後漕ぎ」のようす

 

前後漕ぎ」ではこの画像のアウトリガー・カヌーのように、漕ぎ手が前後のAD-scull を扱えるポジションに位置する必要があります。 前後それぞれのAD-scullにはアームから前方に「早緒(スラスト・ロープ)」 が出ていて、足元のデッキに繋がっています。 しかし前のAD-scullには、それより前方にはデッキがない!ので 船首から斜めに補助のロープを張り、その途中に繋ぎます。すると、2本のAD-scullは「スラスト・ロープ(早緒)」の 張力により、とても安定して、巧く(返しの)回転が行われる ので、両手で簡単に2本漕げるのです!

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側方からみる漕ぎのスタイルもなかなかスマート

 

AD-scullはもともと片手で漕げるのですが、この「前後漕ぎ」はその特徴をアピールするためのパフォーマンスとも言えます。 ただし、スピードは今後の課題です。 「前後漕ぎ」はとても楽しいですが、どんなボートでも可能とは言えません。 このカヌーのように前後のAD-scull に両手が届かないと漕げないからです。 もし2人の漕ぎ手が漕ぐのなら、普通のカヌーなどでも可能になるでしょう、どなたか試してください。

 

<関連報告>

 

  海事技術史研究会「艪漕ぎ操作のモデル化」(2017年11月)

報告者:土井 厚(GL-Labo) 

 

これまで 小型艇での艪漕ぎ実験を続けてきて、わたしは艪漕ぎの動作をラジコン模型で再現してみようと思い立ちました。

 

艪漕ぎの操作を分析すると、直進するには

1)艪を左右に振る(ストローク)

2)それぞれのストローク中に適切な迎え角を保持する(アタック・アングル)

3)各ストロークの終点(ストローク・エンド)でブレードを回転(ターン・オーバー)する ・・・以下繰り返し

 

また 艇を変針(旋回)させるためには・・

4)ストロークの振幅中心を変移させる

5)またはアタック・アングルをストロークの左右で変化させる

6)または 4)5)を併用する

・・・となります。

 

さらに艇速を変化させるには・・・

7)ストロークの振幅を変える

8)ストロークの周期を変える

9)アタックアングルを調整、最適化する

10)適宜 7)8)を併用し あわせてアタック・アングルを最適化する

・・・と言うことになります。

 

艪漕ぎの達人は 上記の総ての要素を総合的、瞬間的に勘案して漕いでいるわけで、この「艪漕ぎ」を模型艇でラジコン操作しようとすると、かなり難しいことになります。

 

一般的には最低2チャンネルのサーボ機構と艪の支点部分にやや複雑なリンク機構を設置しなければなりません。

 

わたしは 2004年の会報で「層流艪」という縦艪を紹介させていただきました。「層流艪」という名称が適切でないとのご指摘を受け、その後「AD-スカル」と改名しましたが、伝統的な艪が静止時にブレードが水面と平行であるのに対して こちらは垂直であるので「縦艪」とも呼んでいます。そして伝統艪のことを「平艪」と称して両者を区別しています。

「縦艪」はもともとブレードの回転(返し操作)時に発生する有害渦が少なくて滑らかに,速い速度で艪走できることを目的に開発されましたが,実際に漕いでみると伝統的な「平艪」と比べて、驚異的に簡単に(未経験者でもすぐに)漕げるという、思いもよらぬ効果が認められました。

簡単に漕げる理由は、艪腕を振り出す方向が艪のターン・オーバーに必要な回転方向と(上から見て)同一だからで、漕ぎ手はごく自然に回転させることができるのです。実際にテレビ番組「どうぶつ奇想天外」で「猿でも漕げる」ことを立証できました。

 

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この「縦艪」であればシングル・チャンネルのラジコンでも漕げると思われましたので、この写真の様に単純な「縦艪を支点に置いただけ」の装置をラジコンのサーボ・モーターで操作者の手指の動きと同期させました。 操作者は実物の艪腕を左右に振るのと同じように、コントローラーのスイッチを左右に動かして前進させます。旋回は前記 4)の方法で可能で、また左右で動かす速度を変えることでも可能となります。

 

 

さて、伝統的な「平艪」は艪腕を左右に動かす時、ブレード角を適当に保つため、上から見て艪腕の動きと反対向きに回転を与えなければなりません。これが初心者が艪漕ぎで一番難しいと感じる操作なのです。

 

ro2.jpg

しかしこの操作も「艪の回転中心が 手元より少し上方の仮想空間にある」と考えれば 自然に操作できるようになります。「平艪」の模型化では、この艪腕の上方の回転中心を実際にメカ的に与える必要がありこの写真のように考案しました。

平艪も縦艪もモデル化では ブレードの回転中心に 早緒を結びつけることにより、漕ぐ力がここ(早緒の結び目)を中心として自然に適切な方向に回転を産む と言うのがポイントです。  そして、縦艪では結び目が艪腕の下方に、平艪では反対に上方に来るということで、2種のモデルともにシングル・チャンネルで左右に単純に振るだけで適切な推進力が得られるようになりました。  両者をラジコンで漕いでみて一番の相違点は、縦艪は漕がなくても前進速度があれば舵として働くが、平艪は抵抗になるので漕ぐ手を休めることが出来ないということでした(実艇でも同様です)。  この縦艪の「舵としても働く」特徴を利用して帆走と組み合わせることにより、新しい「艪帆走」と言うジャンルが生まれました。

 
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艪帆走では何時でも軽く舵(縦艪)を左右に振ると推進力となりますので、弱い風でも本格レースヨットよりも速く帆走できるし、風が弱くてタッキングに失敗することもありません。ヨットレース規程によれば「艪帆走」はルール違反で失格することになりますが・・。

 

 

  海事技術史研究会「艪漕ベクトル図で判ること・・そして提案」(2017年11月)

報告者 土井 厚(GL-Labo)

 

平艪や縦艪を漕いでみると、艪のブレード周りはどんな事になっているのか興味が涌きます。

これまで多くの「艪の力学」に関する論文を読ませていただきましたが、わたしは艪のブレードの位置によって条件が大きく異なるということに触れてみたいと思います。

その為に 簡単な作図に基づいて「艪漕ベクトル図(添付図参照)」なるものを描いてみました。

ro5.jpg

この図の上下方向は艇の速度を表し、横方向は艪の各部の単純横方向の速度です。単純化のために横方向の速度は 艪の左右のストロークの中心位置で表しています。

 

この添付図の一部を拡大して説明すると・・

ro4.jpg

例えば A点を艪ブレードの先端、B点を艪ブレードの入水位置としますと、B点からA点までがブレードの水中に没している部分を表しています。

艇速を1.4m/sとすると先端での流速(ベクトル)は中心から38度方向に約1.8m/s(同心円の半径分)であると判ります。

同様に入水位置での流速(ベクトル)は23度方向に約1.5m/sとなります。

この流速の方向はブレードが揚力を発生しない「ゼロ・リフトアングル」に他ならず揚力を得るには この角度に対して適切な迎え角(アタック・アングル)を与える必要があります。

適切な「迎え角」とは 艪の場合では失速角の近辺かやや手前と考えられ、概ね10~15度近辺となりましょう。 しかし艪ブレードにはプロペラーの様な意図的な捻れを与える事ができないので,ブレード全体に適切な迎え角を与えることは不可能で、先端に近い部分では迎え角は過大になり有害渦を発生してしまいます。

 

しかし 艪漕中にブレードの弾力により曲がったり,捻れたりして先端の過大な迎え角は多少減少するとも考えられます。

こうして見ると、水中のブレードのほんの一部分だけが最適迎え角で漕がれていることになります。その最適部分より先端では過大な迎え角が有害渦を発生し,手前の部分では迎え角が不足して有効な揚力(推進力)を得られていないことも解ります。

 

これまで多くの論文で「艪の迎え角」と言う用語が使われてきましたが、この図で解るように、「艪の迎え角」と一言で表現することは適切ではなく、ブレードのどの位置で計測したかを加えることが必要と思われます。

また漕ぎ手の手元で計測した回転角度を「迎え角」としている場合も見受けられ、これらは統一することが望ましいと考えます。 艪の入水角によっても「迎え角」は大きく変動します。

今後もこの分野の研究が続けられるかどうかは解りませんが、用語の統一と定義の 確立が望ましいと考えます。

以上 ご報告とご提案申し上げます。

モデル平艪1

  

テスト平艪2

 

 テスト平艪3

 

モデル縦艪4

 

モデル縦艪5

 

 

  

 

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